おもこん

おもこんは「思いつくままにコンピュターの話し」の省略形です

ビタミンF


 

「家族」という言葉は、「日常」とか「生活」という言葉と強く結びついたものだと思う。

      起床・洗面・朝食・出勤 ・・・ 帰宅・夕食・風呂・就寝

この繰り返しが「日常」であり、その舞台が「家庭」であり、それらをまとめて「生活」がある。こんな平凡なものが小説になるのだろうか?

 

ところが、なるのである。

 

「ビタミンF」は、第124回直木賞受賞作で、重松清氏の小説である。その本の帯に「せつなく明るい、家族小説の最高傑作」と書かれている。短編7編が収められており、その全てが父親の視点から家族を描いたものである。

 

この本が、我々にとって最も日常的な対象である「家族」を描いていながら、読者に新鮮な印象を与えるとともに、読者をしてその中に新たな発見を見出させるのはなぜなのだろうか?

 

実は毎日顔を合わせている家族も、良く考えてみると1日の半分は別々の世界で生きている。ところがこの当たり前の事実を我々はつい忘れがちである。とくに父親は1日の大半を仕事場で過ごしているにも拘らず、家族のことは何でも分かっているかのごとく錯覚し、家族の「主人」としてすべてをコントロールしているかのような勘違いに陥りがちだ。

 

自身満々の父親は家族のすべてを知っていると思っている。そして突然事件は起こる。今までと違う家族の姿にとまどう父親。作者の見事な心理描写と物語の展開によって、平凡な「家族」が素晴らしい小説に変わってしまう。

 

7つの短編のどれもがハッピーエンドとはいかないまでも、主人公が自分の生き方を再確認して終わってくれるので、読後におだやかな心持になれる作品である。

 

離婚率急上昇と子育ての難しい現代では、どの「家庭」の中にも危機が潜んでいるのかもしれない。現代人の心の支えにもなる作品だと思う。